命と食と直結した現場から
ダムをのぞむ小高い放牧場。48頭の酪農牛が、それぞれのお気に入りの場所でのんびりと草をはむ。一頭一頭名前がついたこの牛たちと一緒に、大石さんは365日牧場主として過ごしつつ、任意団体「森と畑と牛と」の代表幹事として、1次産業の6次産業化を図る「牧場スイーツN0YAMA」の企画開発等に挑んでいる。目指すのは、「観光牧場であり、生産現場であり、様々な人が出会い学べる場」の創造だ。
松江の町中の公務員家庭で育った大石さんが放牧酪農を志したのは、知夫里島で見た放牧牛の様子に心動かされたから。そこでは、一般の道路を牛が歩き、人の生活圏の中に自然と牛が存在していた。
木次乳業を通じて牧場主募集の情報を得た時、迷わず手を挙げた。
木次乳業社員の協力も得ながら牧柵等を手作りし、平成26年に出来上がった放牧場は24.5ha。牧舎からの牛の出入りは常に自由で、山野を踏みしめ、草をはむ牛の行動が、天然の芝公園を現在も進行形で造成している。
牧場を観光や体験の場として期待する声の高まりを受け、「牧場スイーツNOYAMA」は平成29年にスタート。商品開発では複数回の試作を繰り返した結果、シンプルに牛乳の味わいで勝負するミルクシュークリーム(250円/個)を主力商品とし、現在、年間約1千個の販売を達成した。近隣イベントでの販売をメインに、リピーターも獲得している。
さらに受注生産方式で、クリスマスケーキやバースデーケーキの製造も。将来的には牧場内に常設店舗も構え、ギフトセット等の開発も進めていく考えだ。
年間4百人規模で受け入れている子供たちの畜産体験事業では、子牛への哺乳や餌やり体験の場等を提供。牛の温もりを感じながらの体験をとおして、「それまでは牛乳を残していた子が、残さず飲めるようになった」例もあったという。
「放牧場は、生き死にがパッケージとしてそこに存在している。普段の暮らしではあまり感じる機会がない命を、ダイレクトに実感してもらえる」と大石さん。
命と食と直結した現場から、今日も牛と共に、地域と人の営みを支え続ける。
(K)