暮らしやすい観光地を目指す
石畳の路地に並ぶ木造家屋、まるで箱庭のような美しい漁の風景が印象的な松江市美保関町。
この地で、創業300年を迎えた旅館「福間館」の代表取締役を務める福間隆さんは、「交流を通し、受け入れ側の地域住民を元気にしたいという、しまね田舎ツーリズムのコンセプトが大好き」と話す。
旅館の他にも、もともと地域で空き家となっていた家屋を改築し、計3軒の宿泊体験施設をツーリズムの施設として登録している。
1977年には、年間87万人もの観光客が訪れた美保関。しかし、2001年には最低の35万人にまで落ち込んでいる。これに伴い、多くの旅館や飲食店などが廃業していった。
空家が増え、子どもが減っていく姿を、どうにか元気にしたいと思い立ち、1993年、地域の有志で立ち上げたのが「恵美須さんの港町づくり実行委員会」だ。福間さんはこの初代の事務局となった。
福間さんたちの目指すものは、地域の住民自身が暮らしやすいまちづくり、そして地域に愛着をもつ子どもを増やすこと。観光地でありながら、観光客の増大をめざす、「外に向かった」ものではなかった。
「できるだけ多くの住民に参加してもらい、地域の課題をえぐり出し、それの改善策と地域の未来像を考えつづけた」と当時を思い出して福間さんは語る。
1年かけて作った地域のインフラ整備案を、水産庁の長官に陳情書にして提出したこともあったそうだ。買物弱者支援などの解決も設立当初から議題としていた。
そんな福間さんたちの思いは、20年以上の活動を続けていく中で、様々な成果を生んでいる。その一つが、地域住民の集いの場「入来舎(はいらいや)」の開設だ。最高年齢85歳の女性8名からなるチームで運営をしており、地域住民のサロンとしての機能のほか、手作り惣菜の販売なども行っている。
「地域の人にとってはもちろん、運営陣にもかけがえのない生きがい創出の場となっています。また、宿泊施設を利用する外国人観光客にも必ず案内するんです。住民と交流できて喜ばれるんですよ」と福間さんは話す。福間さんの運営する施設だけでも年間600人を超える外国人観光客との交流によって、地域の人々の元気も生まれているそうだ。
最近になって、もう一つの成果が生まれ始めた。若い世代の住民がUターンで帰ってきているのだ。福間さんの息子も昨年末に帰郷し、新たな滞在型宿泊施設の開業に向けて準備中。また、美保関の観光協会の事務局も若いUターン者が就任した。
「子どもたちが地元を好きになってくれるよう活動を始めたのが20年前。その頃に子どもだった世代が帰ってきて、新しいチャレンジを開始している」と嬉しそうに話す福間さん。
地域の「中の人」が元気であることを目指し、それが来訪者との豊かな交流にもつながっていく。これが、観光地美保関流のまちづくりの姿だ。
(S)