地域で待っている人のもとへ!
「らとこんた」は、隠岐の言葉で「らと(わたしと)こんた(あなた)」。
少子高齢化の激しい波に打ち付けられている地域の中で踏みとどまり、「わたし」と「あなた」が共に住みやすい地域をつくっていきたい。そんな思いを胸に住民有志で立ち上げたNPO法人だ。その理事長を務める前川さんは、先頭に立って地域づくりの旗を振り続けている。
1万4千人あまりの人口を持つ隠岐の島町は、高齢化率が40%に迫り、独居高齢者が人口の1割以上を占める。頼みの公共交通は1日数本のバスのみ。歩いて買いにいけていた食料品店はどんどん閉店し、昨年11月の時点で、地区内に一店舗も存在しない無店舗地区は19地区に及んでいた。
こうした状況を打開していこうと、らとこんたでは無店舗地区へ自ら出向いて販売する移動販売車の運営を、今春から開始。車内に食品や日用品等約400品目を積んだ移動スーパー「がいならとこんた」(4・9t車)1台と移動コンビニ「こまいらとこんた」(軽自動車)2台で、高齢者が待つ地域に向かう。
現在、4人の常勤スタッフと1人のパートスタッフで月曜日から土曜日まで移動スーパーを営業。3台の移動販売車が午前9時半から午後4時半まで20~30分間隔で地区をまわり、1日あたり50~60人程の高齢者が利用している。
それぞれの地区の集会所や神社等にやってくる移動販売車は、ともすると自宅に閉じこもりがちになる高齢者世帯や独居高齢者世帯を、玄関の外へと誘い、地域の人との会話を生み出す。
普段は来ている高齢者の姿が見えないと、誰彼ともなく「○○さんは今日、どうされた?」と声が飛ぶ。ある時には、移動販売車が訪れた地域で倒れこんだ高齢者をスタッフが見つけ、自宅まで送っていったこともあるという。
買い物弱者への対策というくくりだけでなく、地域の中へ定期的に外から移動販売車が入ることによる、ゆるやかなセーフティーネットができつつある。
これらの移動販売事業における運営は、決して楽ではない。地域を細かく回れば回るほど、ガソリンなどの経費はかさむ。小ロットでは仕入れの費用を抑えることも難しい。「地域での一歩は血が出る。誰かが血を出さないといけない。覚悟を決めて取り組んだ」と話す前川さん。
現在、「事業を継続する体力をつけていきたい」と、一日当たり10万円前後の売上げを実現している先進例の現場視察を盛り込んだり、介護用品等ニーズの高い商品構成を研究して一人あたりの購入単価を上げる努力をしたりと、事業改善に取り組んでいる。
そして今後は、自宅の外に出られない高齢者に向けた移動販売の個別訪問や、遠方に住む家族に代わって毎週高齢者の安否確認を行い、メールで報告する「見守り隊」の活動等も本格化させていきたいと意気込む。
休日も何らかの電話が入り、ほとんどじっとしていることがないという前川さん。「待っている人がいるから。とにかく約束を守ることに一生懸命」。そう微笑む前川さんは、今日も走り続ける。
(K)