地域おこし協力隊制度初期から継続的に隊員を各地区へ配属している美郷町。全国から集まった個性豊かな隊員たちをサポートする仕組みを試行錯誤してきました。現在、月に1回、町内全ての隊員が集まり、活動報告、情報交換を行うネットワーク会議をベースに、協力隊同士が連携し、サポートしあう体制ができ始めています。
例えば、今後開催されるイベントの情報が共有され、出店のアイデアが飛び交うなかで、隊員同士がイベントに飲食屋台の共同出店を行うといった連携が自然と生まれているのです。窪添可奈子さんは、出店の手伝いをキッカケに他の隊員の商品開発を手伝ったり、自分の担当する君谷地区のマーケットに他の隊員にも出店してもらうなど、繋がりを活かした活動を展開中。「商品開発や進行管理など自分の得意なことでサポートできると嬉しいですね。隊員同士、結構プライベートで一緒に食事もしたりしますよ」と手応えを感じる窪添さん。任期終了後も隊員や地域をサポートすることを見据えて、広告事業やイベント出店支援の事業化も検討中とのこと。
町内で長年活動してきた協力隊の先輩たちの足跡も、現役隊員の活躍の道を開いています。美郷町比之宮地区で栽培されてきた幻の果物「ポポー」を加工したジェラートは定番化し、今も現役隊員が製造に関わり、ふるさと納税などでも人気です。また、町内に残るOBOGや先輩の協力隊が地域や事業者に顔をつないでくれることも、活動をしやすくしている理由のひとつです。
美郷町役場で協力隊を担当する竹下昌輝さんは各隊員たちの状況を把握し、各隊員がより力を発揮できる環境づくりを心がけています。「隊員たちの計画が、形になっていくのを見ていると嬉しいですね。協力隊や大人の山留学(注:美郷町が行う1年間の就労型移住体験制度)などで美郷町に様々な人が来ていただけるので、これからも自己実現と地域の課題解決のマッチングをしていきたいです」と話します。長年の隊員たちの積み重ねが地域資源を掘り起こし、人と人との繋がりをつくりだし、それが地域の魅力となっています。
どういう人がどんな商品を開発しているのかその一部をご紹介します。
美郷町観光協会で活動中です! 観光協会では美郷町の3つの温泉、千原温泉、湯抱温泉、潮温泉の成分を元につくった温泉のもとを販売中。ぜひ手にとってみてください。
私も隊員ですが、他の隊員の商品開発や出店をお手伝いしています。デザインや進行管理などを通じて、隊員や地域の想いを形にするサポートができると嬉しいです。
隊員のみなさんが能力を発揮して、この美郷町で活躍できる環境をつくっていければと思っています。月1回のネットワーク会議には、しまね協力隊ネットワークや県の地域振興担当の方もお呼びして情報共有やサポートに繋いでいます。
広島県広島市出身の岡野さんは「津和野体験Yu-na」という滞在型観光プランのブランド化を推進する協力隊として新卒で津和野に移住、着任しました。
大学時代、地域を舞台に活動できるインターン先として出会った会社から、Yu-naの前身となる観光体験プランのモニターツアーに参加してほしい、というお誘いを受けました。当時の岡野さんは「知らない地域だけど、無料でいけるなら」と気軽にツアーへ参加。そのツアーが、岡野さんの人生の分岐点となりました。
観光地を中心にこの地域の歴史・文化を案内してもらいその尊さに浸りながら、人々が暮らすエリアの田んぼの畦道へ向かいます。ガイドに連れられて、一見なんでもない畦道を自転車でサーっと駆け抜けていった時、岡野さんはその景色に一目惚れ。「この景色を忘れたくない」と心の奥底で思いました。
学生時代から東京への憧れがあり、東京の会社からも内定を得ていましたが「津和野で、Yu-naの仕事をしてみないか」という提案を2022年2月に受けます。少し時間をとって考えましたが、一目惚れした気持ちはゆるがず、決心を固め、入社2週間前に東京の会社の内定を辞退しました。
津和野にはYu-na専任は自分だけ、しかも自分は新卒で仕事の仕方もまだ手探り、というプレッシャーもあり、苦労することもありますが、岡野さん自身の中で津和野という場所が持つ観光のポテンシャルの高さや様々な人との出会いが、活動の大きな原動力となっています。
自身でツアーガイドも行う岡野さんは、ツアーを終える度に、津和野がもっと好きになる感覚があるそうです。それも相まって、お客さんから「津和野愛が伝わりました」と言ってもらえることが多く「自分にしかできない仕事」をしている実感に繋がっています。
Yu-naをきっかけに津和野へ足を運び、たくさんの方に津和野をゆっくり楽しんで欲しい。そんな想いを胸に、津和野の観光に向き合い続けていきます。
東京都内の民間企業でITエンジニアとして働いていた野田さん。「大好きな自然に触れたい」という思いから、2022年4月に地域おこし協力隊として西ノ島町に着任しました。現在は観光定住課に所属し、観光ガイドや情報発信業務に取り組んでいます。
埼玉県出身で大学時代は社会学部に所属。まちづくりに関する講義を受講していくに連れて、地域への興味関心が湧いてきました。大学卒業後は別の分野に進みましたが、20代の若者を対象にした離島での1年間お試し移住制度「大人の島留学」をテレビで知り再燃。島留学への応募後に来島し、想像以上に豊かな暮らしができると感じて移住を決めました。
活動内容は幅広く、観光協会を訪れた方への案内や知識の底上げを目的とした勉強会の開催など、様々なことに取り組んでいます。最近の趣味は、西ノ島町にある自分だけのお気に入りスポットを見つけること。「これからも移住者だからこそ発見できる魅力を町内外に伝えていきたいですね。」より多くの方に魅力を届けるためにも、自然豊かな暮らしを楽しみ続けます。
大学4年生の頃、就職活動が上手くいかずに悩んでいた坂本さん。SNSで「大人の島留学」の投稿を発見し、活動内容や島の生活に惹かれ、2022年4月に地域おこし協力隊として西ノ島町に着任しました。現在は観光定住課に所属し、移住検討者や定住者向けのサポート業務に取り組んでいます。
埼玉県出身で高校時代はインドネシアに1年間留学。大学では国際協力について学んでいました。青年海外協力隊を目指した時期もあり、新しい環境へ飛び込んで行くことに躊躇はありません。日本の地方にも以前から関心がありました。
日々の活動では、移住者に向けた島内案内や魅力発信を主に担当。昨年度は自分が案内した方が移住してくれました。「きっかけの1つになれたことが嬉しいです。」とやりがいを感じています。写真フォルダには青い海や釣った魚など思い出がたくさん。島のリアルを伝えるために、これからも色々なことを体験し『西ノ島力』を高めていていきたいと考えています。
2020年4月に地域おこし協力隊として邑南町へ着任した石井大貴さん。任期中にブドウの栽培を学び、現在は「神紅」と「シャインマスカット」を育てています。広島県府中町出身で、高校卒業後は地元の工場に就職。農業をしたい兄の湧貴さんと島根県の移住相談会に参加したことがきっかけで、興味を持つようになりました。研修制度が充実していた点も移住を決めた理由の1つだと言います。
隊員1年目は研修用圃場で苗木の定植などを学び、2年目は農林大学校で短期コースに通いながらハウスで苗木を定植、3年目は育成を行いました。ブドウが実をつけるのは4年目以降。「まだまだ迷うことは沢山ありますが、気軽に相談できる環境があるので安心できる」と石井さんは話します。
最近は硬くなりやすい土壌の改良に挑戦しました。「頑張った分だけ成果につながることがやりがいです。」美味しくて香りのよいブドウを実らせるために日々愛情を注いでいます。
「働き方を自分で決めたいと思ってました。」弟の大貴さんと同じ会社に所属し、工場勤務をしていた石井湧貴さん。今は休む暇がないほど忙しい毎日を送っていますが、以前より楽しく充実していると話します。
今後もずっと続けられる仕事を探していたところ、農業にたどり着きました。「神紅は一房3千円~4千円、都内では1万円で取引されることもあります。とても夢があると思いませんか」。利益率の高さを重視した結果、野菜ではなく果樹を選択。現在はブドウ「神紅」のみを育てています。
自分が好きな時に働ける点や、竹資材や落ち葉など農業に必要なものが無料で手に入る点も大きな魅力だと言います。「いろんな可能性がある環境だからこそ、自分がやりたいと思ったことに挑戦できます。来年はより育成に専念できるよう生産体制を整えていきたいと考えています。」ブドウ農家への道はまだ始まったばかりです。
猪肉活用に取り組む、大阪出身の佐藤さんと島根県浜田市出身の森脇さんの松江市協力隊OBOGコンビ。佐藤さんは、東京でフリーの構成作家として多忙な日常を送る毎日。森脇さんは、広島で管理栄養士としてドラッグストアに勤務する中、夫の転職先を探していました。そんなふたりが、東京と広島で開催された移住フェアに「とりあえず行ってみよう」とそれぞれ参加し、2016年4月から松江市地域おこし協力隊の1期生となりました。
協力隊の2年目、猪肉の商品開発に携わることに。猪肉のフランクフルトを作り、各地のお祭りで販売すると、これが予想を超える大ヒット。この大成功の裏でふたりは、「自分たちはただ串を刺しているだけじゃないか」と思い至ります。そもそも、どうして猪肉が余るのか。そこを深堀りしていくと、猟師の減少や仕留めても、活用もされず、ただ駆除として埋められるだけの猪など、鳥獣害をとりまく現実が見えてきました。
本格的にこの問題に向き合おうと狩猟免許を取得し、ベテランの猟師さんの猟に同行させてもらいながら、信頼関係を築いていきました。2018年11月、鳥獣被害対策や鳥獣肉の加工・販売などを行う合同会社弐百円を立ち上げます。いわゆる肉が美味しい冬の猟期だけでなく、鳥獣害対策で狩られる夏の猪の肉も余す所なく活用し商品化していくことを目指しています。「自分たちがおもしろいと思うことをやって、それが周りの人も喜んでくれて、結果的に地域のためになれば、それが一番いい」。ふたりに「地域おこし協力隊だから地域のために何かやらねば」という気負いはありません。自分たちの好奇心に正直に、自然体で今を楽しんでいます。
今後は、これまでの二人三脚での活動から、次のフェーズにステップアップできたらと考えています。「自分たちの活動に共感して、特技を発揮して一緒に活動してくれる人が現れたらうれしい」。ふたりの挑戦は、まだまだ続きます。
島根県、公益財団法人ふるさと島根定住財団、一般社団法人しまね協力隊ネットワークが協力して、地域おこし協力隊のサポートに取り組んでいます。 経験がない隊員でも、地域づくりの活動を始められるように、人口減少が進む島根の課題に触れ、地域へのアプローチ方法や、行政の仕組みを学ぶ機会を確保。これまで島根で活動してきた協力隊OBOGの知見を伝え、つながりを作ることを大切にしています。
基礎研修や地域おこし協力隊員・自治体職員合同研修の他、活動発表会や生業づくり研修、現地視察型の研修交流会、オンラインでのスキルアップセミナーなど、さまざまな学びとつながりづくりの場を開催し、活動をサポートしています。
着任して間もない隊員が対象。協力隊として活動するための基本を学び、隊員・OBOGとのつながりを作ることで、活動をスムーズに始めたり、相談しあえる仲間づくりをします。
隊員と自治体の担当職員がともに学ぶ研修会です。有識者による講義のほか、隊員はロードマップ作成、職員は情報交換を行い、学びを深めた上で、各自治体ごとでの対話の時間を設けています。活動現場から離れて視野を広げ、活動を俯瞰することが、より良い活動につながります。
主に3年目の隊員が発表者となり、活動期間の振り返りと任期後についてプレゼンをします。先輩隊員の実践から学べるよう、アーカイブも作成しています。
島根県各地のOBOGや隊員の活動拠点を訪問し、現地視察しながら参加者同士の交流を深めるイベントです。県内各地の魅力にふれる時間でもあります。
島根県の地域おこし協力隊の現役隊員・OBOGと、その活動を応援する人たちのネットワークグループです。つながり、ともに学ぶ場をつくり、協力隊の活動や島根での暮らしがより良いものになるよう協力し、隊員が入った地域や団体、そして自治体がより良いものになることを目指しています。2017年11月にOBOG有志により任意団体を設立、2019年4月より一般社団法人になりました。
島根県の地域おこし協力隊サポート事業に関する企画・運営を行うほか、市町村からの依頼に応じて、研修や導入支援、募集サポート、制度設計など、地域おこし協力隊制度のより良い運用の支援を行っています。また、島根県の移住促進や関係人口創出、地域づくりに関連する事業にも、県内全域のネットワークを活かして参画しています。
東京都出身。体づくりと農ある暮らしをテーマに人がつながる場づくりをしている。つちのと舎 代表、地域おこし協力隊サポートデスク 専門相談員、総務省地域おこし協力隊アドバイザー、総務省地域力創造アドバイザー、社会教育士。
東京都出身。島根県立大学地域政策学部講師。専門は日本各地の祭の研究。フリーランスとして記事や映像の制作、ウェブ配信、ファシリテーターなども行う何でも屋。ブックスペースはらっぱ図書室も運営。
千葉県出身。新卒でIターン移住。任期中にカフェIrohacoを開業し4年間運営。コロナ禍を機に、行政や個人事業主向けのコンサルティング事業をスタート。松江市在住。犬好き。
島根県出身。奥出雲町を中心として、地域×不動産をキーワードに”まちのにぎわいをつくる”複数事業を展開中。(株)OKU-Reno.(オクリノ不動産)代表取締役、(一社)リーガルサポート雲南代表理事、行政書士。
一般社団法人しまね協力隊ネットワーク
mail:shimaneknw@gmail.com
Web:https://shimaneknw.localinfo.jp
Facebook:https://www.facebook.com/shimane.kyouryokutaiNW/
3大都市圏を中心とした都市住民が過疎地域を始めとした条件不利地域に移住(住民票を移動)し、地域おこし活動の支援や農林漁業の応援、住民の生活支援など「地域協力活動」に従事し、あわせてその定住・定着を図りながら、地域の活性化に貢献するものです。
全国各地の地方公共団体(主に市町村)がそれぞれの地域の状況に合わせた活動内容で隊員を募集し、選考プロセスを経て「地域おこし協力隊員」として委嘱します。隊員の任期は概ね1年以上3年未満です。自治体が隊員の活動にかけた経費に対し、国が財政支援する仕組みになっています。隊員一人あたり年間520万円が上限で、そのうち報償費の上限が320万円、それ以外の経費の上限が200万円となっています。(令和6年度より拡充)
平成21年に総務省が制度化し、初年度は31団体・89名でしたが、令和4年度は1,118団体・6,447名が取り組んでいます。地域おこし協力隊インターン制度もあり、2週間〜3ヶ月のプログラムを実施している団体もあります。
各市町村やミッションにより地域おこし協力隊の活動内容はさまざまです。任用形態も会計年度任用職員として自治体に雇用される場合や個人事業主として委託される場合など様々。また、隊員になる人の年齢層は20代〜30代が7割を占めますが、10代から60代まで幅広く分布しています。
多様な地域おこし協力隊ですが、共通しているのは「地域に根ざす」ということ。地域に学び、地域と交わり、地域の力を高めて、新たな未来を拓きます。