中世からの城跡を残す要害山の麓、風情ある家々が軒を連ねる静かな三沢(みざわ)の町並みがあります。
2021年夏、空き家になっていた大きな古民家が地域の若者たちによってリノベーションされ、「レンタルスペース&キッチン金𠮷屋」がグランドオープンしました。立役者のひとりが奥出雲町地域おこし協力隊OBの糸賀夏樹さんです。
出雲市出身の糸賀さんは大学進学を機に県外へ出ていましたが、働きすぎで体調を崩したり、子育て環境を考える中で島根に帰ることを決め、2016年4月、奥出雲町の地域おこし協力隊に着任しました。
移住コーディネーターとして空き家バンクの運営に携わり、同期の隊員の濱田達雄さんと奥出雲町初となる不動産会社・オクリノ不動産(株式会社OKU-Reno.)を起業。その頃、奥出雲町の起業・創業支援施設「古民家オフィスみらいと奥出雲」ができあがり、ここに入居したことが三沢の町との出会いになりました。
同時期にみらいとへ入居したのが吉川英夫さん(NPO法人ともに)でした。三沢が地元である吉川さんに誘われ、糸賀さんたちも地域イベントのお手伝い等をするうちに、地域の人たちと馴染んでいきました。そんな頃、みらいと近くの空き家の大家さんが急逝。「ここで何か地域のためになることをしたい」という想いを聞いていた糸賀さんは、一念発起。この古民家を借り受け、事務所兼レンタルスペースをつくることを思い立ちます。その企画を地域の若い人たちに投げかけたところ、むしろどんな場所が地域に欲しいのか、自分たちも関わることとして議論が始まりました。糸賀さんも地域にもう一歩踏み込み、主体となって活動する決意を固めます。
地域の上の世代の人たちは吉川さんがつなぎ役となってくれ、老若男女が参加するリノベーションが始まりました。材料費などは(株)OKU-Reno.が持ち、地域のみんなの力を借りながら可能な限り、自分たちの手で手作りしていくことにしました。ほとんどが素人同然でしたが、大工さんなど建築関係の仲間もでき、教えてもらいながら作業は進みました。仕事帰りや休日など仲間が集まっての作業はまるで大人の部活動。工事の進捗はゆっくりでしたが、だからこそたくさんの人がこの場への関わりしろを得ていました。
そしてついに金𠮷屋が2021年8月にグランドオープン。食堂やBarなど、三沢の地域内外のいろいろな人たちのチャレンジを実現する場となっています。「やりたいことがある人が、やりたいことを、やりたい時にできることが『まちのにぎわい』をつくると思うんです。そして、金𠮷屋はずっと未完成。みんなで創り続けていくのがいいんです。」と糸賀さんは地域の未来をみつめます。
「子どもの時は<いけずご(いたずらっ子)>でね、地域の皆さんにだいぶお世話になったんですよ」穏やかに話す吉川さん。三沢への深い愛着から、2018年にNPO法人を立ち上げ、訪問介護事業を始めました。現在は地域での買い物を支援する「ともにマーケット」や移動販売車の運行、金𠮷屋での「ともに食堂」の運営も手がけています。そんな吉川さんは、地域の中のつなぎ役で調整役。外の人と中の人をつなぎ、上の世代に下の世代の話しを伝えるなど、地域のみなさんが気持ちよく関わり合える土台づくりをされています。協力隊など外部人材の力と、吉川さんのような地域の内部人材の力が掛け合わさって、三沢の地域ににぎわいが生まれています。
変化が求められるこの時代「自分で稼ぐ力を身につけてみたい」と大阪の印刷会社で勤務していた浅見さんは地方移住を決意。偶然みつけた浜田市の地域おこし協力隊に応募しました。ミッションは「浜田の海を活かした観光振興」。夏には海水浴客で賑わう国府海岸の目の前のコミュニティカフェ「hamairo」を拠点に活動をしています。天然記念物「石見畳ヶ浦」に隣接し、日本海に沈む夕日も美しい絶好のロケーション。コワーキングスペースとして運営しながら、地域と連携した様々なミニイベントを企画しています。
「浜田の海のポテンシャルはすごいんですよ」、土地に根ざした暮らしのなかの海の文化を、より多くの人に広めたいと活動しています。最近はアカモクに注目。磯でとれる粘り気のある海藻ですが、栄養を多く含み健康食材として注目されています。浅見さんはアレルギーを持つ人でも気軽に食べられる米粉のアカモクパンを開発中。最初はうまく膨らまず苦戦しましたが、様々な人に意見をもらいながら改良しています。
「島根は人と人との距離が近いので、気づいたら面白い活動をする人たちと繋がっています。巻き込まれに行くようなつもりで動いてます」浅見さんの魅力は、物腰柔らかで行動的ですが少し頼りなさげにみえる佇まい。地域の公民館や、地域づくりの活動、古民家リノベーションの現場など出向いた先では様々な人が声をかけてくれます。例えば浅見さんが「浜田で有名らしい北前船について教えて欲しい」とSNSに投稿したところ、次々に教える人が現れ、そのままhamairoでのミニイベントにもなりました。
一方で漁師見習いとしての活動も始めました。定置網の乗組員として朝5時に港を出ます。「朝日を見ながら、毎朝クルージングしてると思えば贅沢な時間です」と笑って話しますが、少しずつ漁師の方々とも打ち解け、自分の船を持ち、素潜り漁も始めたいと意気込みます。「卒業後は漁師を一つの軸に地域と関わる活動を続けたいですね」と決意しています。
移住支援やPRをはじめ、地域づくり、就職支援など島根に関わる人を応援する「ふるさと島根定住財団」。今力を入れているのが地域のファン「関係人口」を育てる取り組み。雑誌『ソトコト』と連携して2012年から東京で島根に関わりたい人に向けた連続講座を開催しています。その後、大阪、広島にも広がり、島根講座も開催されるようになりました。
浅見さんは協力隊1年目に島根講座に参加。約半年をかけて地域で動くプロジェクトを育て、浜田の人の魅力を発信するフリーペーパーを制作しています。
黒川さんは、定住財団の石見事務所の職員。しまコトにもスタッフとして参加していました。浜田で前向きに頑張る浅見さんの姿を見て「応援したい」と思ったそうです。浜田市内外のイベントやhamairoでもよく顔を合わせ、会えば話をするご近所さんのような存在に。
「しまコト」は活動を応援してくれる人と出会えたり、同じように地域でチャレンジをしようという人と繋がれる場でもあります。浅見さんも受講生とのコラボイベントをhamairoで開催。仲間ができ、活動の幅も広がっています。
本土からフェリーで2時間半、高速船なら1時間、隠岐諸島は美しい大海原にあります。ここに2021年春、任意団体「隠岐地域おこし協力隊サポートコミュニティ(オキサポ)」が立ち上がりました。島だからこその素晴らしさがある一方で、難しさがあるのも現実。「本土より行き来がしやすく、島の文化も共有できる同士でもっとつながって、支え合えるといいよね。」と、4島4名のOBOGたちが、隠岐支庁の担当者の声かけで集まると動き始めました。
まずは支庁が開催する研修にゲスト参加してお手伝いをしたり、地域おこし協力隊サポートデスク専門相談員で離島振興にも携わる藤井裕也さんをアドバイザーに招き、自分たちで研修を企画運営する準備を進めました。
正式に任意団体となった2021年度は、町村からの委託を受け、初任者研修や予算に関する研修、任期後の出口戦略や自治体向けの研修などに取り組んでいます。土中さんは事務局として経理や調整を担い、小笠原さんは主に講師役、余島さんが明るくにぎやかな場作りを行い、それを代表の島根さんが見守ってみんなに安心感をもたらす・・・それぞれの持ち味を活かした組織です。「オキサポに関わるメンバーを増やしたいね」「コミュニティを充実させていきたいね」と話しあう4人。離島でもしっかりと横のつながりをつくれる場が生まれています。
インドネシア バリ島で結ばれた利典さんと紗江さん。4人の子どもに恵まれ、バリ島土産『Barong Cookie』を創業するなど基盤もできていましたが、日本での新たな生活拠点を考える中で、利典さんのご両親の出身地である島根県が候補に。調べていくと、なんと美郷町はバリ島と交流関係にあることがわかりました。
バリ島と美郷町のご縁に導かれ、2020年秋、一家で移住し、ご夫婦で協力隊に着任。現在は都賀本郷を拠点に利典さんは情報発信、紗江さんは地域産品開発に取り組んでいます。できあがった商品の1つが「薬草Misato Sambal」です。サンバルはインドネシアの食卓に欠かせないスパイシーな調味料ですが、自家用に作ったものが地域の方に好評で、商品化しようと動き出したそうです。美郷町の薬草研究会で学んだ薬草を取り入れたり、使いたいハーブを地域の人が育ててくれたり、収穫して届けてくれたり、いろいろな方が協力してくれるうちに、ほぼ美郷町産のサンバルができあがりました。デザインは利典さんが担当。紗江さんの壁打ち相手となって商品のコンセプトを確かなものにするなど二人三脚で取り組んできました。「バリ島と美郷町どちらも地域のお宝を大切に、人が喜ぶものを作りたい」といつも話しているお2人です。
島根県の地域おこし協力隊OBOG有志により2019年4月1日より一般社団法人化。島根県内の協力隊に寄り添いながらネットワークを構築中。協力隊の研修や交流事業、導入運用サポート等を行う。
代表は三瓶裕美(雲南市協力隊OG、総務省 地域おこし協力隊サポートデスク専門相談員)、濱田達雄(奥出雲町協力隊OB、株式会社Oku-Reno.代表取締役)。
地域おこし協力隊の新規募集は、自治体から随時行われます。募集の情報は、各市町村のホームページや広報のほか、(一社)移住・交流推進機構(JOIN)の「地域おこし協力隊」サイトなどに随時掲載されます。